福本伸行,かわぐちかいじ『告白(コンフェッション)』読みました。これはすげえ面白いです。 緊迫感がたまらない。心理的なやり取りは確かに福本だなと思いますが、御大の表現でさらに増幅されているように感じます。ぶつかりあう悪意ある感情が、もうとにかく恐ろしい。 大学の山岳部時代からずっと友達の男ふたりが、雪山で遭難しかけ、そこで自分はもう助からないと思った片方が過去の殺人を告白したところで吹雪がちょっとだけ晴れて山小屋に行き着き、お互い助かりそうだ、さあどうする、となってから救助されるまでのたったの一晩をスリリングかつダイナミックに描いています。
殺人の告白を後悔しているだろう、過去を知った相手を生かしてはおかないだろう、生きて戻ったら警察に訴え出るだろうと疑心暗鬼になりまくり、捜索隊が到着するまでの長い長い一晩です。ページをめくる手が震えるほど息の詰まる内容を、思わず一気読みしてしまいました。
かわぐち氏は見開きの使い方、ページをめくったときの繋がりというか変化というかがとにかく上手いと思います。全体を入れたりアップにしたりの映画的な画面構成の中に、山小屋の構造をきちんと図解してあるのも親切で、ミステリとしても読めるでしょう。叙述で嘘は吐いておらず、細かい言葉や表現の端々にミスリードと伏線が張り巡らされています。 なんとなくオチが読めるのですが、それに目を瞑れる楽しさを味わえる作品だと思います。『生存』も面白かったですが、あれは「正義は勝つ」的なところがちょっと鼻につくので、私はこちらのほうが好きです。
また、『メドゥーサ』の龍男と陽子には緊張感があってもそこには愛情がありましたし、「何万ガロンの血もオイルも流す」と言い切った海江田もその行動の根底には人間全体に対する大きな愛がありました。縄井さんだって竹田健次だってヤマオカだってキララだって、悪意だけで行動はしていませんでした。 でも『告白』のふたりには友情すら危うく、なんだかんだでかわぐち氏は愛情がテーマだよなと思った次第です。 |